コラム
DX戦略・戦術の策定方法を具体例を元に解説
市場での生き残りをかけて、実現が急がれている企業のDX。時代の波に乗り遅れまいとデジタル技術の導入を検討している企業も多いでしょう。しかし、十分な戦略を立てずにスタートしてしまうと、思ったような効果が得られないうえ、コストばかりがかさみ逆効果にもつながりかねません。この記事ではDX戦略の必要性や、戦略・戦術の立て方について解説していきます。
目次
DX推進には戦略が不可欠
DXとはデジタルとデータを活用してビジネスモデルや組織文化に変革をもたらし、市場での競争力を上げていく取り組みを言います。
これまでデジタルやデータをあまり活用してこなかった企業にとっては、DXは大きな挑戦になるかもしれません。DXを実現するにあたっては、DX戦略を策定することが重要です。
DX推進ガイドラインから分かる戦略の重要性
経済産業省がまとめたDX推進ガイドラインでは、DX推進にあたり必要な項目として「経営戦略・ビジョンの提示」を挙げ、「戦略なき技術起点のPoCは失敗と疲弊のもと」と述べています。
また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)がまとめた「DX推進指標 自己分析結果分析レポート(2020年度版)」を見ると、戦略を立てることがDX推進にとって重要であることが分かります。
同レポートでは、「DX推進指標(※)」により診断されたDX成熟度の平均値が3以上の企業を「先行企業」、先行企業以外の企業を「非先行企業」とし、両者の「戦略とロードマップが明確になっているか」の度合いを公表しています。
これによると、先行企業では同指標における成熟度は平均3.54、非先行企業では平均1.16と、大きな差があります。DXを推進できている企業では明確な戦略が立てられているのに対し、行き詰まっている企業では戦略が明確でないことが分かります。
DXを実現させるためには、しっかりとした戦略を立てることが不可欠なのです。
(※DX推進指標…自社のDX成熟度や課題を社内で認識・共有して次のアクションにつなげることを目的に、経済産業省により策定された指標。成熟度はレベル0からレベル5までの6段階で評価される)
DX戦略の立て方
DX戦略はどのように立てればよいのでしょうか。主なポイントを見ていきましょう。
ビジョンを明確にする
戦略を立てる上でもっとも大切なのはビジョンを明確にすることです。
DXを実現したい領域はどこか、DXによってどのような価値を生み出したいのか、そのために必要なビジネスモデルは何かといったビジョンをしっかりと描きましょう。
ビジョンを決定する上で大切なのは企業の「思い」です。
DXにより成長が期待できそうな領域があっても、その領域へのDX投資は行わないという企業の意思があるなら導入を見送りましょう。反対に、DX効果は未知数ではあるものの、この事業に賭けたいという思いが強ければ、取り組んでみる価値は大いにあります。
優先順位を付ける
DXを推進する上では、優先順位を明確にすることが大切です。
DXでは「新しいことを始める」「今までしてきたことをやめる」など重大な決断を下すシーンが多くあり、経営層による意思決定が不可欠です。いろいろな領域で一気にDXを推進しようとすると、経営層に過度な負担がかかり、適正な判断を下すことが難しくなります。そのため、優先順位を作って経営層がコミットしやすい状況を作りましょう。
DX推進によってこれまでの業務は大きく変化し、さまざまな調整ごとが生じます。またDX推進に関わる人材を確保する必要があり、これらの調整によって組織には大きな負荷がかかります。
以上から、まずは優先順位の高いものからDX推進をスタートし、成功事例を1つ作ることを目標にしましょう。DXのノウハウが分かり、人材も揃ってきたら段階的に活用領域を広げていくとよいでしょう。
戦術を立てる際のポイント
戦略が明確になったら、どのようにDXを推進していくかの戦術を立てましょう。戦術を立てる際のポイントを3つ紹介します。
1.データを重視する
戦略立案時には「企業の思い」を重視しましたが、戦術を立てる際に重視すべきものはデータです。人間の経験や勘だけでは解決できなかったビジネス課題が、客観的なデータ分析によって解決に向かうケースは多々あります。人間の「こうしたい」という思いに引っ張られることなく、データの分析結果を冷静に見て判断していくことが大切です。
2.スピーディーに進める
新しいデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを生み出すという性質上、DXの推進にはスピード感が重視されます。スタートしたときには新しかった取り組みも、のんびり進めていては鮮度が落ちて古びた取り組みとなり、競争力向上にはつながらないでしょう。
DXを推進する際には、「データを分析する→分析結果を見て対策を立てる→対策の効果を検証する」の手順をスピーディーに行いましょう。事業全体に対する取り組みの場合は半年ごと、個々の日常業務の場合は1~2週間ごとにデータを見直して新たな施策を打ち出していくのが理想的です。
3.小さな失敗を積み重ねる
DXでは、小さな失敗を重ねながら対策を練り直すという経験の積み重ねが大切です。人間の場合、経験から学びを得るには数年かかるケースもあるでしょう。しかしデジタルでは、失敗と対策を繰り返したデータはどんどん蓄積され、すぐに使える学習材料になります。蓄積された失敗事例や成功事例を分析・学習することで、どのような施策がうまくいきやすいかを判断するスピードが身についていきます。
戦術にもとづいて推進されたDX具体例
DX戦術には「データ」「スピード感」「失敗の積み重ね」が大切だと述べました。このポイントを重視した戦術のもとに推進されているDX事例を紹介します。
BtoC営業:ダイレクトメール送付
営業部門やマーケティング部門で消費者にダイレクトメールを送付している企業は多いでしょう。
印刷物は印刷コスト抑制のため、一度に大量に作成するのが通例です。そして大量の印刷物を頻繁に作成して送付するのはコスト・労力ともに負荷が高いため、DM発送は多くとも1ヶ月に1回程度にとどまることになります。しかしこの頻度では、顧客に情報をタイムリーに届けられないこともあるでしょう。
そこでこの領域でDXに取り組み、紙のDMをデジタルに置き換えることにしました。これによって「一度に大量に作成する」「送付頻度が制限される」という縛りがなくなり、顧客リストから一部の人を選んでDMを打ったり、その反応を見て顧客全員にDMを送ったりといった柔軟な運用ができるようになりました。
BtoB営業:デジタル広告のデータ活用
BtoB営業領域でもDXが進んでいます。
BtoBの事業で紙媒体による広告活動を行なっても、広告のどの部分が関心を集めているのかが推測できません。そこで、広告を紙からデジタルに切り替えることで、この課題に取り組みました。
メールマガジンやWeb広告、会員制コンテンツサイトなどのデジタル広告は、解析ツールを使って広告の効果を測定できます。クリック数、ページ滞在時間等のデータを収集・分析することでどのコンテンツが関心を集めたかを解明し、顧客の反応に応じてアプローチをかけたりサイトを改善したりといった対策をとれるようになりました。
上記2例はいずれも紙での運用をデジタルに切り替えたケースです。これにより「コスト抑制」、「相手の反応に応じた柔軟な対応」、「失敗してもすぐに次の対策に移れる身軽さ」といったメリットが得られました。
上記のような日常業務は、失敗を積みながらスピード感をもって進めるのに適した領域です。失敗と対策の繰り返しによって貴重な分析データが蓄積されていくので、小さな失敗を恐れずに取り組むことが大切です。
DX戦略・戦術なしでは成功は望めない
DX実現を急ぐあまり「シェアの大きいDXツールを導入して、進め方は追って考えよう」「外注のDXコンサルタントに任せればよいだろう」といった考えでスタートさせるのは禁物です。明確な戦略と戦術なしではDXの成功もないと考え、まずは企業の思いが込もった戦略を立案することから始めていきましょう。
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